「たぬきの有る生活」


私は、たぬきによって生かされている。
比喩表現ではなく、本当にたぬきがいなければ生きていけないのだ。
そして、それを恥とも思っていない。
一般的な感覚の持ち主や、たぬき嫌いの人間が聞けば眉をひそめるような話だが、
たぬきに頼った、たぬ給たぬ足の生活を送っていた。
だがこれが案外と、やってみれば成立するものだ。

山の中の一軒家。今は宅配サービスも充実していて、リモートで仕事もできる。
わざわざ都会の喧騒にまみれる必要はない。
ひとまずは食事と電気と水さえあれば生きて行ける。
水に関しては水道水や近所の湧き水だが、他の二つはたぬきを使って成立させられるのだ。
まずは食事。
生きていくための基本だ。
タンパク質やミネラルはたぬき料理で賄い、
ビタミンの類は、家庭菜園で育てた野菜で賄う。
もちろん栄養バランスを考えての事だが、野菜を育てていると野良のたぬきが引き寄せられてくる。
もちろん、タダでやる訳にはいかないので罠を仕掛けている。
畑の手前に鉄線を張り、勲章をぶら下げておく。これに常時電気を流しておいて、
『手を洗ってから取ってください』と看板を立てておき、桶に塩水を入れておけば。
「なんだし…気が利いてるし…」
「ｷｭｰ！チビ、はじめてのくんしょうだし！」
などと、気軽に引っ掛かってくれる。
塩水で通電しやすくなった手で帯電した勲章を触れば、たぬきの身体に強力な電気が流れる仕組みだった。
キラキラの勲章を無視出来るたぬきなどいないので、これで一網打尽だ。
後は大抵のチビが黒焦げになって死んで、親がしぶとく生き残る。
通電した勲章に接触があった場合、自動で勲章の周りにカゴが落ちる仕組みになっている。
親か子が先に勲章に触り、死体の前で嘆き悲しんでいる場合、生き残りはそのままカゴの中だ。
労働力としてなら親だけで良く、食用には親子の方が都合が良いので生き残った組み合わせに応じて振り分ける。


ちなみに、捕まえた野良たぬきの服などは、マルカリにそのまま出しても売れる。
たぬきの服を売って、自分の服を買う。
また集めた髪の毛を売ったり、しっぽの毛をマフラーなどに加工して売ればそれも収入になる。


生活の基盤となる、電気代。
スマホもタブレットも好きに使えるぐらい、電気には困らない。
ではどうやって電気を得るのか。
使うのは、トボトボ発電機とたぬき。この２つだけでいい。
トボトボ発電機を使ってたぬきを歩かせる事で日がな電気を起こし、生活家電を動かしているのだ。
先述のたぬき捕獲用の電流勲章トラップも、こちらから電力を得ていた。
初期費用はかさむが、ランニングコストはかなり安い。
先程の家庭菜園に手を出そうとした不届きたぬを使うので動力源は継続的かつ簡単に手に入る。
罠も繰り返し使えるのでお財布に優しい。
トボトボ発電機は回し車内にたぬきを立たせて、上部に注水したタンクをセットするだけで準備は完了する。しっぽに水を一滴ずつ垂らし続け、たぬきがトボトボ歩くことで滑車が動いて発電が行われる仕組みだ。
たぬきはしっぽが濡れた場合は必ず、
「しっぽも濡れたし…」
と呟いて、ジタバタや他の行動よりもトボトボ歩くことを優先する習性を利用した機械だった。
脱走の心配もなく、ジタバタと暴れ抵抗する事もない画期的な商品だ。
これのおかげで、たぬきに頼った暮らしを思いついたと言ってもいい。

わぞわざ発電機のみの部屋を作り、5台稼働させていた。
カーテンは閉めてあり、部屋の中は昼間でも薄暗い。
この部屋自体に電気を使うのは“無駄”だからだ。
24時間発電を目指すために歩かせ始める時間はずらすように心がけている。
多く発電できれば、その分余った電気を電力会社に売ることもできるからだ。
複数の発電機を並べるのは仲間が近くにいた方が寂しくないだろうという心遣いと、少しでもションボリの発生を増やすためだ。
嘘だ。かわいそうなたぬきを見たいからだ。
「はやくここを抜け出していっしょにモチモチしたいし…しっぽ乾かないし…」
など仲間と共に適度に願望を抱かせたり、
話をして仲良くなった奴が動かなくなるのを見て、
「どしたし…寝ちゃったし…？びしょびしょになってるし…」
「起きるし…おはなし出来なきゃ悲しいし…」
「つらいし…でもまた尻尾濡れたし…」
「いったいどれだけ歩けば解放されるし…？」
それでも歩く事を強要され続けるたぬきは美しい。
当然だが、不眠不休で延々歩き続けるので、動力たぬきは長持ちしない。
力尽きて倒れ込んだ動力たぬきにも水は垂れ続けるので、
朝起きたらずぶずぶの死体が出来ていることもある。
だが捕まえた野良は順番待ちぐらいに溜まっている。
力尽きるのを待たずに、ふらつきが発生したやつから取り替える事もあった。
「休ませてくれるし…？やさしいし…」
「やっとゆるしてもらえたし…がんばった甲斐あったし…！」
精神がぶっ壊れてこちらに感謝し始める個体だろうが構わず、毛を処理し、服を剥ぎ、たぬき用フードプロセッサーにかける。
「出してし…出してし…」
「やだし…ここ、なんかやだし…」
モチモチと蓋や透明なケースを叩くが、下部の刃が何をするものか薄々勘づいているたぬきを、自らが起こした電気で起動した機械によって粉砕するのもまた趣があるものだ。


出来上がったものは、そのまま皿に盛る。
歩きながら食べれるよう、回し車の軸に回転しないよう固定されている皿に入れてやれば、動力たぬきは目の前ある食べ物を、何の疑問も抱かずに受け入れる。
さっきまで励まし合っていた、仲間の成れの果てとも知らずに。
「ぺちゃぺちゃし…このごはんは一体なんだし…初めて見るし…ごくんし…」
歩くことはやめられないがお腹は減っているので、動力たぬきは手をベタベタにしながら口に運んでいく。
盛ってある元たぬきごはんはペースト状にしているので、たぬきにはわからないのは道理だ。
「まあいいし…おいしいし…しっぽまだ濡れてるし…」
ちなみに発電用たぬきはパンツを脱がしている。
小も大も垂れ流しだが、発電機の床には一部に凹みがあり、チョロロロ…ブリブリ…と落としていったものは床を汚さずにカートリッジに回収され、滑車が回転しきった際にカートリッジごと発電機前方の糞尿ボックスに落とされる仕組みだ。
糞尿ボックスに溜めておいた中身は家庭菜園で肥料として使う。
発電用たぬきはこうして死ぬまで歩き続け、回し車を動かして電気を作り出す。
風呂を沸かし、電動歯ブラシを動かすための電力まで提供してくれる。


それでも捕獲した野良はなお余り、臭みがあって食用には向かないので他の使い道に転用する。
発電用だけではなく、たぬ木を育てるのにも使う。
たぬ木から採取した実の中のたぬきが、主な食料源となるのだ。
育てるといっても世話をさせるのではない。
実を作るためのションボリ発生用のたぬきとして用意するだけだ。
エサも必要ない。首・手足・胴体・しっぽを結束バンドで縛り、たぬ木に磔にする形で固定して吊るしておくのみ。
こちらも下を脱がしておけば排泄物は全て幹を伝って流れ落ち、鉢の中の肥料となる。
後は定期的にたぬ木がションボリを摂取できる仕組みを用意する。
透明な水槽の中央にたぬきを固定済みのたぬ木の鉢を置く。
その中にチビたぬきを入れておくだけだ。


親があまり子供を可愛がらず、見捨てようとしてきた場合や、
あるいは子の数が多い場合は親を吊るしてその周りにチビを配置しておくことでチビからションボリを摂取する。
大抵のチビは親を慕うため、吊るされているだけでションボリするからだ。
助ける手段が思いつかず、ただ親を見上げ続けるだけでションボリが木に集まっていく。
吊るされた親が愛情のない個体の場合、
「やくたたず…たすけろし…」
と言われたショックでジタバタして泣き出すチビたぬきのションボリ供給量はかなり高い。


もっとも、愛情の無い親の場合はそのうち子供に見捨てられたションボリでたぬ木を育ててくれる。
チビ達も次第に吊るされている親に興味を無くし、モチモチしあったりうどんダンスを始めるからだ。
最初は上から落ちてきた涙に反応して、もらい泣きをしていたのに、眉間に皺を寄せ、口元のへの字を強くした迷惑そうな表情で
「ｷﾞｭｳｯ！」
と威嚇するように態度を変化させていくのがおもしろい。


実から産まれたチビたぬきは吊るしたぬきの目の前で家庭用の“たぬシッポむきむきくんZ”や“たぬヘアーぬきぬきくんZ”を使い、無駄な毛を全て除去する。
その後は塩を入れた氷につけて体温を下げ、仮死状態にしてからその日に食べる分以外は冷蔵あるいは冷凍する。
生姜焼きにしたり、シチューに入れてみたり。
しっかり味付けをすれば美味しくいただける。
ガスコンロを持ってきて目の前で調理していると、吊るしたぬきは
「やめてし…もう許してし…」
と悲嘆に暮れ、空腹のチビ達は訳もわからず美味しそうな匂いに涎を垂らしながら透明な壁に汚い顔を押し付ける。
出来上がった物を見せてやれば、ようやく同族だと気づいたチビ達は、両手で顔を覆って空っぽの水槽を半狂乱で走り回り、こけてジタバタしていた。


毛を抜いたピンクのしっぽは燻製にしてジャーキーにしても美味い。
色はどす黒くなり、たぬき特有のモチモチさも失われてしまうが程よい塩味と旨味が何とも言えないツマミになる。
　

この実をそのまま食べる事もある。
実からチビが生まれる様を見せた後に吊るした親の前で収穫したての実を食べると、よりションボリする。
我が子や姉妹にも等しい実の中身がこの世に生を授かる前に潰されるのは流石に堪えるらしく、
「や…めてし…」
「ｷｭ…たべちゃダメ…し…」
と弱々しく抗議してくるのがまた良い。
 

また逆に、親の愛情が深くチビの数が少ない場合は親を吊るした後、その親から見える範囲でチビをひどい目に遭わせる。
粘着テープの上に仰向けにしたチビを貼りつけておけば大抵は自分より先に飢えていく子供の姿と、助けられない無力感でションボリしていくが、
収穫スピードを上げたい時には色々な仕掛けを使う。
虫眼鏡をセットし、火事にならないよう細心の注意を払って、外から取り入れた太陽光でチビたぬきの一点を焼き続ける。
ジタバタが出来ぬまま、ぶすぶすと煙を上げて泣き叫ぶ子供を見ればションボリ度合いは加速度的に増していく。
あるいは粘着テープにより顔も背けられぬまま、目を焼かれて叫び狂う我が子の様子に
「やめてし！やるならたぬきをやってしぃぃ！チビのおめめ焼かないでしぃぃーーー！」
と大騒ぎした後、やがて叫ぶ体力もなくなった末に諦めると。
「ｷｭｷｭ…ｷｭｳｳｳ…」
とチビのような声しか出せなくなり、ションボリをたくさん生み出してくれる。
目を焼かれたチビは角度を変えてもう片方も焼くが、その頃には親たぬきも無駄だと悟って我が子の惨状を無言のまま見つめ続けていると思ったら舌を噛んで死んでいた。



ションボリ発生用たぬきも、過酷な精神環境に耐えられずにストレスで死ぬか、このように舌を噛んで自死を選ぶために２日ぐらいすれば交換の必要がある。
鉢の周りに置いていたチビ達は何も与えないので当然餓死する。
粘着テープで固定していない場合、たまに残ったやつが動かなくなった姉妹を食べて生き延びようとするので、そうなる前に死骸をつまみ上げて水槽から除外する。
「ｷｭｯ…ｷﾞｭｳｳｰ…！」
残った力で抗議の叫びをあげるチビが無視され、やがて動きを止める。
この状況もまた、ションボリを増やすのに効率的だった。
そうして親も子も死んだらたぬフードプロセッサーにかけて、トボトボ発電機用たぬきのエサにする。
ここでも、たぬ給たぬ足が活きてくるわけだ。

たぬきの服で作ったカバーに、たぬきの毛を詰め込んだたぬ毛ふとんは中々に暖かい。
毎晩、眠る時にはたぬきへの感謝の念を忘れない。

ありがとう、たぬき。
この世に生まれてきてくれて。
もしこの世からたぬきが消えてしまったら、私の生活は立ちいかなくなるだろう。
だから私は、たぬきによって生かされている。

オワリ